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2025.12.23
【株式会社taliki 取締役 原田岳氏】社会起業家と支援者が"同じ船"に乗って目指す、持続可能な社会変革
社会起業家と支援者が"同じ船"に乗って目指す、持続可能な社会変革
ソーシャル・イノベーション人材養成プログラムでは、臨床心理学の知見を土台に、人や組織、社会の「構造」に目を向けながら、ソーシャル・イノベーションを実践できる人材の育成に取り組んできました。本インタビューでは、社会起業家の育成・事業開発・投資を通じて、社会変革の最前線を支える株式会社talikiの取締役・原田岳さんにお話を伺っています。
「命を落とす人、死ぬより辛い人の絶対数を減らす仕組みをつくる」という強烈なビジョンのもと、talikiが大切にしているのは、起業家を"支援する側"と"支援される側"に分けるのではなく、「同じ船に乗る仲間」として社会に向き合う姿勢です。
その視点は、ビジネスと社会貢献の両立という問いにとどまらず、起業家自身のメンタルヘルスや、長く走り続けるための在り方にまで及んでいます。
本記事では、社会課題を「仕組みの歪み」として捉える視点、社会起業家に求められる資質、そして心理学がビジネスや社会変革の現場で果たし得る役割について、原田さんの言葉を通して紐解いていきます。
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株式会社taliki |
インタビュー実施日:2025年11月10日(月)

「仕組み」の歪みから生まれる課題に挑む
竹内:まずは、株式会社talikiの事業内容とビジョンについて教えてください。
原田:私たちは「命を落とす人、死ぬより辛い人の絶対数を減らす仕組みを作る」というビジョンを掲げています。
事業としては、社会課題を解決しようとするスタートアップの支援が中心です。具体的には、創業初期(0→1)のインキュベーション支援、ファンドによる出資、大手企業とのオープンイノベーション、そしてメディアやシンクタンクを通じたノウハウの発信などを行っています。
これまで450以上のチームを支援してきましたが、私たちがアプローチするのは、「マネタイズが難しく、市場がまだ確立されていない領域」です。
竹内:具体的にはどのような領域を「社会課題」と定義されているのでしょうか?
原田: 私たちは社会課題を「マジョリティのために作られたルールやシステムの歪みから生まれ、自然には解決されないもの」と定義しています。
例えば、野菜の流通規格。形のきれいな野菜を効率よく流通させる仕組みは多くの人にとって有益ですが、そこから「規格外野菜の廃棄」という歪みが生まれます。他にも環境汚染や貧富の拡大など、全体最適の裏側でこぼれ落ちてしまう歪みに対し、経営を手段として解決に挑む人々を「社会起業家」と呼び、支援しています。
talikiにおける「社会課題」の定義
talikiにおける「社会起業家」の定義
支援者ではなく「同じ船に乗る仲間」として
竹内:非常に難しい領域への挑戦だと思いますが、原田様ご自身はどのような経緯でtalikiにジョインされたのですか?
原田:元々は私自身、「夢を追う若者向けのシェアハウス」を経営していました。福岡の田舎から上京した際、教育や経済の格差を痛感し、若者が挑戦できる環境を作りたいと思ったのがきっかけです。
しかし事業を続ける中で、個人の支援だけでなく、より「社会構造的」なアプローチの必要性を感じるようになりました。そんな時、代表の中村から誘いを受けたんです。現場での対症療法だけでなく、セーフティネットのない人々を救う「仕組み」そのものを作るビジョンに共感し、3期目にtalikiに加わりました。
竹内:支援する側として、どのようなスタンスを大切にされていますか?
原田: 明確に「支援者と被支援者」と切り分けているわけではありません。
私たちは、自分たちだけではアプローチできない最前線の課題を解決してくれる起業家と、「大きな一つの船に乗っている仲間」だという感覚を持っています。彼らが現場で戦い、私たちがリソースを提供し、共に社会を良くしていく。そんな対等なパートナーシップです。
社会起業家に必要なのは「原体験」よりも「解像度」
竹内:社会起業家として活躍する人に共通するマインドセットはありますか?
原田: 当たり前のようですが、一番大事なのは「諦めないこと」です。
その上で、成長する起業家に共通するのは「課題に対する解像度の高さ」です。
当事者がどんな痛みを抱えているのか、周囲にどんなステークホルダーがいるのか、なぜその社会構造が生まれているのか。課題を取り巻く環境やお金の動きまで深く理解している人は、ビジネスとしての打ち手も的確ですし、その「唯一無二の視座」に人やお金が集まってきます。
竹内:学生からはよく「自分には強烈な原体験がない」という悩みを聞きます。原体験は必須でしょうか?
原田: 必ずしも原体験を持っている必要はありません。
もちろん原体験はモチベーションの源泉や解像度を高める武器にはなりますが、それだけでは経営は続きません。
実際、「ノブレス・オブリージュ(持てる者の義務)」の精神で、当事者ではなくても使命感を持って課題に取り組む素晴らしい起業家もたくさんいます。原体験の有無よりも、解決手段に対してどれだけ解像度を上げ、泥臭く実行し続けられるかの方が重要です。
ビジネスの現場における「メンタルヘルス」の重要性
竹内:心理学的な観点からお伺いします。社会起業家のメンタルヘルスについて、現状をどう捉えていますか?
原田: これは非常に重要なテーマです。起業家、特に社会課題に向き合う人は、無理難題の連続の中にいます。
経営者は孤独になりやすく、うつや双極性障害の発症リスクとも隣り合わせです。特に創業期はお金がなく、自分のメンタルケアにお金をかける余裕がないというジレンマもあります。
竹内:今後、心理の専門家やカウンセラーにどのような関わりを期待されますか?
原田:もっと気軽に、誰もがメンタルサポートを受けられる環境が必要です。
talikiでも、プログラムの中にメンタルマネジメントのワークショップを組み込んだりしていますが、まだまだ足りません。
心理職の方が、例えば企業研修などで収益を確保しながら、その一部のリソースで起業家を支援するといったモデルがあれば、社会課題解決のエコシステムと非常に相性が良いと思います。ビジネスの現場にこそ、心理的な専門知見を持った伴走者が求められています。
京都から世界へ、そして次世代へ
竹内:京都で活動することの意義について教えてください。
原田:京都はソーシャルビジネスと非常に相性が良い街です。
100年続く企業が多く、「持続可能性(サステナビリティ)」が歴史的に根付いています。また、行政、大学、金融機関(信用金庫など)の連携が進んでおり、社会起業家を支えるエコシステムは日本でもトップクラスに整っています。この環境でチャレンジすることは、起業家にとって大きなメリットがあると感じています。
竹内:最後に、ソーシャルイノベーションを志す学生や、支援者を目指す方へメッセージをお願いします。
原田: 今、インパクト投資(社会課題解決への投資)の市場は急速に拡大しており、3年間で約10倍に成長しています。追い風は吹いています。
これから挑戦する皆さんに伝えたいのは、「他者への愛だけでなく、自分への愛も持ってほしい」ということです。
社会課題の解決には時間がかかります。自分自身が潰れてしまっては意味がありません。自分を守り、時には大人や支援機関を頼りながら、長く走り続けてください。
そして支援者を志す方へ。起業家は孤独です。彼らの想いを理解し、共に悩み、伴走してくれる存在を心から待っています。ぜひ私たちと一緒に、この船に乗ってください。
おわりに
社会課題に向き合う起業家も、支援者も、一人の人間です。迷い、悩み、ときに立ち止まります。だからこそtalikiは、起業家を"支える対象"としてではなく、同じ船に乗り、ともに悩み、ともに前に進む存在として捉えてきたのだと思います。
印象的だったのは、「原体験がなくてもいい」という原田さんの言葉でした。
大切なのは、課題に対する解像度をどこまで高められるか、そして泥臭く向き合い続けられるか。その姿勢こそが、人やお金、そして信頼を引き寄せていく----この言葉は、学生だけでなく、すでに現場にいる多くの実務家にも響くものだと感じています。
また、起業家のメンタルヘルスに対する率直な言及は、臨床心理学に関わる立場として非常に示唆的でした。
「他者への愛だけでなく、自分への愛も持ってほしい」というメッセージは、社会課題解決に関わるすべての人に向けられた、大切な警鐘でもあります。
臨床心理学が培ってきた、人を理解し、関係性の中で変化を生み出す力は、治療や支援の現場だけでなく、ビジネスや社会変革のプロセスそのものを支える力になり得ます。
社会起業家と支援者が同じ船に乗り、互いを気遣いながら進んでいく。その航路の先にこそ、持続可能な社会変革のヒントがあるのではないでしょうか。
本記事が、読者の皆さんにとって「自分はどの立場で、どう関わるのか」を考える一つのきっかけになれば幸いです。
京都文教大学 地域企業連携コーディネーター
竹内良地

| インタビュアー | 竹内良地 京都文教大学 地域企業連携コーディネーター / Actors合同会社COO 2017年に京都文教大学臨床心理学部を卒業後、新卒でネスレ日本株式会社に入社。セールスや企画業務を担当。2022年には人材育成‧組織開発プロジェクトをオーナーとして成功に導き、社内コンテスト「イノベーションアワード」を受賞。その後、スタートアップ企業を経て、Actors合同会社の立ち上げに参画しCOO(最高執行責任者)に就任。心理学の知見を活用した企業におけるビジネス課題の解決やオープンイノベーション創出を行う「ラポトーク」事業を立ち上げ、責任者を務める。加えて、京都文教大学にて文部科学省採択事業「大学連携型ソーシャル‧イノベーション人材養成プログラム」における地域企業連携コーディネーターを務め、大学‧企業‧地域団体間の連携に尽力。 |
「大学連携型ソーシャルイノベーション人材養成プログラム」のご紹介
龍谷大学大学院政策学研究科、琉球大学大学院地域共創研究科、そして京都文教大学大学院の3大学院が連携し、次世代のソーシャルイノベーション人材を育成するためのプログラムです。このプログラムでは、社会課題を多面的な視点から分析する力や、異なる領域の知見を統合し新たな価値を創出する力を養います。持続可能な社会の発展に貢献できる人材を育成することを目指し、臨床心理学の知見を活かしながら、社会課題解決に向けたイノベーションのプロセスやデザインを描けるイノベーション人材、そしてそのイノベーション人材を支援する心理専門家を育てていきます。
公式ホームページ:https://www.kbu.ac.jp/kbu/siprg/index.html
お問い合わせ :https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfXy4M4_xmAHPJu0lFeUyrG-comYT_mSQrCZosOwUWS1By73Q/viewform





