Topics 2025 2025年度ニュース・プレスリリース一覧
2025.12.22
【SI-D履修院生インタビュー】"臨床心理学 × ソーシャル・イノベーション"の新しい可能性

本記事は、ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム(SI-D)を履修中の大学院生の皆様に、プログラムを通して得られた学びや率直な意見を伺ったインタビューを基に作成されています。
この貴重な内容は、次世代の履修者への参考とすることを目的としています。
|
取材日:2025年10月4日(土) 11:00〜12:00 |
1. 臨床心理学を「社会」へ接続する動機
まずは、それぞれの研究テーマと、なぜSIプログラムを履修しようと思ったのかを聞きました。
● 山中さん(博士前期課程2年生)
「臨床の枠を超え、社会の多様な世界を知る」
山中さんの研究テーマは「バイオグラフィー・ワーク(自分を振り返ることから得られる自己理解と他者理解)」。
臨床心理学の専
「SIキャップストーン・
臨床の世界に閉じず、社会のさまざまな領域と接続していきたいという問題意識が伝わってきます。

自身のキャリアとSI受講の動機を話す山中さん(博士前期課程2年生)
● 飯野さん(博士前期課程1年生)
「問題発見から、その先の『解決プロセス』へ踏み出したい」
飯野さんは、不登校をテーマに研究を進めていますが、SIを志望した理由は、テーマそのものよりも「問題解決のプロセス」に惹かれたからだといいます。
「問題や課題を発見した後、それを実際どう解決していくかというところまで、普通の研究ではなかなか考えません。 SIを通じて、問題発見から解決に至るまで、もう一歩先を踏み出す方法を学びたいと思いました。」
過去に、老朽化に伴い閉鎖された適応指導教室の事例に触れたことから、システム的な課題にも関心を持つようになったそうです。
SIを通じて問題発見から解決に至るまでのプロセスを学びたいと話す飯野さん(博士前期課程1年生)
● 世古さん(博士前期課程1年生)
「社会全体で、自己理解の場をどう提供するか」
世古さんは、エンカウンターグループをテーマに、自己成長・自己探求に関心を持っています。 自己理解ができていない人が社会に多いと感じる一方で、「どうすれば自己理解の場を提供できるのか、その方法が全く想像がつかなかった」ことが、SI履修の大きなきっかけになりました。
「個の自己理解」を社会全体の仕組みと結びつけていく視点を求め、SIに飛び込んだ形です。
自身の関心のあるテーマとSIの受講理由について話す世古さん(博士前期課程1年生)
● 横山さん(博士前期課程2年生)
「心理専門家が『社会を生きる力』を身につけるために」
横山さんは、人生の転機における「移行体験」のプロセスをテーマに研究しています。
指導教員である濱野先生から、臨床心理学の分野が社会と分離している現状を聞き、その問題意識に強く共感したと話します。
「福祉の世界では、その枠内での支援には限界があると感じています。その人がその人らしく生きるための自己実現や、人生の広がりを社会に広げていくために、心理専門家が社会で生きていくための『センス』を磨く必要があると考え、SIを履修しました。」
真の解決には、個別支援だけでなく、社会構造そのものに働きかけることが必要だという認識が、履修の背景にあります。

臨床心理学の学びと並行してSIを学ぶことの意義について話す横山さん(博士前期課程2年生)
2. SIプログラムで得られた学び
実際にプログラムに参加し、龍谷大学・琉球大学の学生・教員との交流や授業を通して、院生たちは大きな視点の変化を経験しています。

心理学の「当たり前」を客観視する力
山中さんは、異分野との協働を通じて、専門家間での考え方の違いと同時に、課題分析における臨床心理学との共通性も実感したといいます。
「関係者の生の声に真摯に耳を傾け、問題の来歴や現状を理解し、その解決に向けて各要素のポテンシャルを最大限に引き出そうとする姿勢は、臨床でセラピストが心がける在り方とほぼ共通していると感じ、そこに心理職としての視点がSIに応用可能であることを実感しました。」
横山さんも、SIでの学びを通じて、「社会側から見たときに、心理の考えはそんなに考えられていない」という事実に気づいたと話します。
「心理学が持つ専門的な視点(例えば発達障害に関する知識)は、社会の人には意外と知られていない。心理にとって大切なことを、知らない人にどう伝えていくかという力が非常に重要だと学びました。」
相手の視点や構造を理解しつつ、心理の知見をその構造に組み込んでいくコミュニケーションスキルこそが、これから社会で生きる心理専門家に求められると感じている様子です。
マクロな構造分析が、ミクロな課題解決を導く
世古さんは、龍谷大学の授業で学んだ構造分析(政治・経済・歴史など、多角的な視点から全体を捉える手法)が、自身の研究に活かせそうだと語ります。
「臨床は『個』にフォーカスするミクロな視点が多いですが、構造分析はマクロな視点です。
このミクロとマクロの視点を往復することで、今まで見えてこなかった部分が捉えられるようになり、自分のやりたいことも見えてきました。」
一方で、「使う脳の切り替えが難しい」とも話しており、この視点の往復そのものが現在のチャレンジになっているといいます。
飯野さんは、一つの事象についてより深く考察ができるようになったと語ります。
「適応指導教室の閉鎖の事例を通して、単に『お金がないから』ではなく、その背景にあるシステム構造に至るまでのプロセスを深く見られるようになった」
龍谷大学での学びが、心理職として社会課題にコミットする道筋を考えるうえで役立っていると感じているそうです。
3. 率直な意見と、後輩へのメッセージ

半年間にわたる履修を経て、プログラムの良かった点だけでなく、運営面の課題や、後輩へのメッセージも率直に語ってもらいました。
良かった点・推薦ポイント
多くの院生が口を揃えたのは、視野の広がりと多職種連携の実践です。
横山さん:
「いろんな視点を学べ、臨床のセンスが磨かれるのが一番大きいです。キャップストーンなどのチーム活動では、みんなで協力してやっており、楽しさもあります。」
飯野さん:
「ソーシャルイノベーションという共通の目標を目指せることが良い。心理学だけの枠に留まらず、持っている視点が増えたと感じます。」
山中さん:
「SIでの学びを経て、産業分野における臨床心理学の活用や必要性を深く理解できた。"
弱み"と見える課題を"強み"へと転換していく視点を持ち、 関係者の誰もがより豊かに幸せになれる方法をチームワークで編み 出していくことの楽しさを実践的に体験できます。」
4. 後輩へ伝えたいメッセージ
キーワードは「なんとかなる」
SI履修を検討する後輩たちの多くは、「キャパシティオーバーにならないか「体力的に持つのか」といった不安を抱えているだろう、と院生たちは口にします。
世古さん:
「興味はあるけれど、自分のキャパシティをオーバーしないか、体力的に大丈夫か心配している人が多いと思います。だけど、意外となんとかなる。もちろん大変ではあるが、みんなで協力して乗り越えています。」
横山さん:
「SIは、大学院の授業だけでは得られない"多職種連携の実践の場"です。心理的な視点を社会に浸透させていく練習の場にもなっています。」
山中さんからは、自分の研究テーマと社会課題がつながる実感を得た経験から、「生かすのは私」という力強い言葉で、主体的に参加することの大切さを語ってくれました。
また、世古さんと横山さんは、SIプログラムへの参加を促すためには、文字情報だけでなく、「授業でこんなことをした」「キャップストーンではこんなことをした」といった具体的な活動内容を、体験者の生の声で伝える機会が最も効果的だと提案してくれました。
おわりに
SI-D履修生インタビューを通じて強く感じたのは、学生一人ひとりが「心理学を社会へ橋渡しする実践者」として確かに成長しているということです。臨床心理学の専門性を土台に持ちながら、政策・産業・福祉など異なる領域の視点を吸収し、自分の言葉で語り始めている姿は、まさにソーシャルイノベーションの担い手そのものでした。
ソーシャルイノベーション人材養成プログラムでは、異分野の知を往復しながら、"現場から学び、社会の構造を読み解き、他者に伝える"力を育むことを大切にしています。学生たちの言葉の端々から、その力が確実に身についていること、そして自らの専門性を越境させようとする姿勢が芽生えていることを実感しました。
履修生たちは、臨床心理学の「個を深く理解する視点」と、SI-Dで得た「社会を構造的に捉える視点」の両方を手に入れています。この二つの視座を行き来できることは、これからの時代において非常に重要な資質です。社会課題は複雑化し、一つの専門性だけでは解けない問題が増える中、こうした"多様な知の融合"こそが新たな変化を生み出す原動力になります。
今回のインタビューで見えたのは、SI-Dが単なる学びの場に留まらず、学生たちの思考回路やものの見方そのものを変える「変容の場」になっているという事実です。これは、まさに本プログラムが目指す「社会的インパクトの創出」に直結する成果だと確信しています。
地域企業連携コーディネーターとして、学生たちが得た学びを、地域・企業・大学の連携の中でさらに発展させていくことが、持続可能な社会につながると改めて感じました。今後も、学生が多様な現場と出会い、自らの可能性を広げていけるよう、橋渡しの役割を果たしていきたいと思います。
京都文教大学 地域企業連携コーディネーター
竹内良地
| インタビュアー | 竹内良地 京都文教大学 地域企業連携コーディネーター / Actors合同会社COO 2017年に京都文教大学臨床心理学部を卒業後、新卒でネスレ日本株式会社に入社。セールスや企画業務を担当。2022年には人材育成‧組織開発プロジェクトをオーナーとして成功に導き、社内コンテスト「イノベーションアワード」を受賞。その後、スタートアップ企業を経て、Actors合同会社の立ち上げに参画しCOO(最高執行責任者)に就任。心理学の知見を活用した企業におけるビジネス課題の解決やオープンイノベーション創出を行う「ラポトーク」事業を立ち上げ、責任者を務める。加えて、京都文教大学にて文部科学省採択事業「大学連携型ソーシャル‧イノベーション人材養成プログラム」における地域企業連携コーディネーターを務め、大学‧企業‧地域団体間の連携に尽力。 |

「大学連携型ソーシャルイノベーション人材養成プログラム」のご紹介
龍谷大学大学院政策学研究科、琉球大学大学院地域共創研究科、そして京都文教大学大学院の3大学院が連携し、次世代のソーシャルイノベーション人材を育成するためのプログラムです。このプログラムでは、社会課題を多面的な視点から分析する力や、異なる領域の知見を統合し新たな価値を創出する力を養います。持続可能な社会の発展に貢献できる人材を育成することを目指し、臨床心理学の知見を活かしながら、社会課題解決に向けたイノベーションのプロセスやデザインを描けるイノベーション人材、そしてそのイノベーション人材を支援する心理専門家を育てていきます。
公式ホームページ:https://www.kbu.ac.jp/kbu/siprg/index.html
お問い合わせ :https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfXy4M4_xmAHPJu0lFeUyrG-comYT_mSQrCZosOwUWS1By73Q/viewform




