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2025.04.15
【西陣麦酒】「Well "BEER"ING!」を通じて多様性と幸福を醸す場所 〜西陣麦酒に学ぶソーシャルイノベーションのかたち〜
2025年3月12日(水)、京都文教大学「ソーシャルイノベーション人材養成プログラム」の一環として、京都・西陣に拠点を構えるクラフトビールブランド「西陣麦酒」を視察訪問しました。運営母体は就労継続支援B型事業などを行う社会福祉法人でありながらも、社会課題の解決をビジネスを通じて実践する現場に触れ、大きな学びと気づきを得ました。
西陣麦酒 事業内容 :クラフトビールの製造・販売 |
ビールを通じて人生を豊かにする 〜WELL-BEERINGという思想〜
西陣麦酒は、「WELL-BEERING(ウェルビアリング)」というコンセプトを掲げています。これは、「至福の一杯」という"Well Beer(ウェル・ビーア)" と、心も身体も、社会的にも良好な状態にあることを示す"Well Being(ウェルビーイング)"を合わせた言葉です。単にビールをつくることが目的ではなく、「西陣麦酒が生みだすクラフトビールで、色々な人の色々な幸せを共に味わいたい。」という願いが込められています。
このコンセプトを体現するように、醸造に関わるのは自閉症スペクトラムを含むさまざまな障がいのある方々や地域の方など、さまざまな背景を持った人々。クラフトビールならではの少量生産の柔軟さを活かし、それぞれの個性を大切にしながら、多様で個性的なビールが生まれています。彼らが分業と協働によって創り出すクラフトビールは、どれも個性的で、まるで一杯ごとにストーリーがあるかのようでした。
スムーズな作業を支える、創意工夫の現場
当日はまず、運営母体である社会福祉法人菊鉾会ヒーローズの施設長・野村尊実様より、西陣麦酒の成り立ちや日々の取り組みについてお話を伺いました。
障がいのある方が安心して働けるよう、現場にはさまざまな工夫が施されています。
たとえば、
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作業工程を描いた「絵カード」を使用し、1日のスケジュールを視覚的に共有
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作業が終わったカードを移動させることで、進捗と次の作業が一目でわかる工夫
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麻紐を瓶にかける作業では、イラスト付きの手順書を用いて、ミスや混乱を最小限に
といった取り組みがあります。
これらの工夫により、作業者が「次に何をすればいいか」に迷うことなく、ストレスの少ない環境で働くことができています。また、工程を自分の目で見て確認できることで、達成感や自信にもつながっているといいます。
自閉症スペクトラムの方々が持つ特性(たとえば、ルーティンを好む、感覚過敏、視覚的情報の理解が得意など)を踏まえ、「小規模で工程が明確なクラフトビール醸造」は、働く環境として非常に適しているとのことでした。
見学を通じて体感した"つながり"の場
施設見学では、実際の醸造設備や作業スペースに足を踏み入れ、普段の現場で行われている作業の様子を間近で見ることができました。
利用者の方がラベル貼りや瓶詰めなどの作業に集中できるスペースを設けており、作業の進捗が可視化されることで「自分の役割がある」「社会の一員として関わっている」という意識が芽生えるような仕組みもありました。
作業工程はすべてがマニュアル通りというわけではなく、一人ひとりの特性や得意分野に合わせた工夫が随所に施されており、まさに"共につくる現場"そのもの。そこには、「構造化」や「視覚支援」といった心理学的な知見に基づいた考え方も実践されており、福祉の現場で大切にされる"安心感"がしっかりと根付いていました。
また、スタッフの方と利用者の間にある温かなコミュニケーション、そして地域の方々との自然なつながりも感じられました。地域イベントでの販売や、タップルームでの接客など、ビールづくりのプロセスが地域社会そのものと溶け合っていることに、深い感動を覚えました。
ビールを造るだけでなく、それを届ける、飲んでもらう、感想をもらう。そうしたすべての過程が「人と人との関係性」で成り立っており、まるで一杯のビールが、"共につくり、共に味わう"という小さな社会の循環を象徴しているようでした。
西陣麦酒の現場には、単なる生産や雇用という枠を超えた、"居場所"としてのあたたかさと、"協働"によって生まれる創造力の豊かさがありました。
それは、「人が人らしく働き、共に在ることの意味」を体感できる貴重な場であり、まさにソーシャルイノベーションの実践そのものでした。
(PECS®などのコミュニーケーション支援を取り入れ、作業工程や休憩時間を細かく絵カードにすることで利用者の方が一日のスケジュールを把握しやすくなっています)
※ PECS®(Picture Exchange Communication System) 絵カード交換式コミュニケーションシステム
(様々な種類のクラフトビールを製造する西陣麦酒では、この作業がどの種類を製造する工程なのかがイラストでわかるように工夫されています)
京都・西陣の新たな観光地であり、障がい福祉をもっと身近に感じることの出来る拠点
視察の締めくくりに訪れたのは、醸造所に併設された「西陣麦酒 京町家タップルーム」。
古き良き京町家を活かしたこの立ち飲みスタイルのタップルームは、地域に開かれた"交流の場"でもあります。
クラフトビールは定番に加え、ここでしか飲めない限定醸造の一杯も多く、訪れるたびに新しい発見があるのも魅力のひとつです。地域と共に楽しむこのスタイルは、西陣麦酒の「WELL-BEERING」という想いをそのまま体現しているようにも感じられました。
今後はこのタップルームを拠点に、障がい福祉をもっと身近に感じられる場、そして新たな観光スポットとして京都・西陣を盛り上げていくことを目指しているとのこと。クラフトビールファンはもちろん、福祉や地域づくりに関心のある方にもぜひ訪れていただきたい場所です。
「大学連携型ソーシャルイノベーション人材養成プログラム」のご紹介
龍谷大学大学院政策学研究科、琉球大学大学院地域共創研究科、そして京都文教大学大学院の3大学院が連携し、次世代のソーシャルイノベーション人材を育成するためのプログラムです。このプログラムでは、社会課題を多面的な視点から分析する力や、異なる領域の知見を統合し新たな価値を創出する力を養います。持続可能な社会の発展に貢献できる人材を育成することを目指し、臨床心理学の知見を活かしながら、社会課題解決に向けたイノベーションのプロセスやデザインを描けるイノベーション人材、そしてそのイノベーション人材を支援する心理専門家を育てていきます。
公式ホームページ:https://www.kbu.ac.jp/kbu/siprg/index.html