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2024.12.19
【株式会社増田医科器械 藤冨徹氏・田淵衛氏】成長のために必要なことは、「異文化との他流試合」から気づきを得ること
はじめに
医療技術の進歩や社会環境の変化に伴い、医療業界は日々新たな課題と機会に直面しています。そんな中、創業から100年近くにわたり地域医療に貢献し続けている企業があります。
京都を拠点とし近畿圏に事業展開する株式会社増田医科器械は、医療機器の総合ディーラーとして長い歴史と信頼を築いてきました。
同社は、医療現場で必要とされるほとんど全ての機器を提供し、地域の医療機関とともに成長してきました。また、社員を大切にする経営方針や、地域貢献活動、産学連携など、多岐にわたる取り組みを行っています。
今回は、株式会社増田医科器械の藤冨取締役と田淵常勤監査役にインタビューを行い、同社の歴史や事業内容、地域との関わり、人材育成への想いなどについて詳しくお話を伺いました。長い歴史の中で培われた経営哲学や、これからの医療業界を見据えたビジョンに迫ります。
株式会社 増田医科器械
創立 :1928年4月
事業内容:医療機器販売、理化学機器販売等
住所 :〒612-8443 京都市伏見区竹田藁屋町50番地
H P :https://www.masudaika.co.jp/
インタビュー実施日:2024年11月14日(木)
ーまもなく創業100年を迎える増田医科器械の歴史と事業展開ー
竹内良地(以下、竹内):まずは、御社の歴史や事業内容についてお聞かせいただけますか。
藤冨取締役(以下、藤冨):弊社は1928年(昭和3年)に創業し、2028年には創業100周年となります。創業以来、医療機器の総合ディーラーとして事業を展開しており、病院で使用されるほとんど全ての医療機器を提供しています。
周辺事業としては、補聴器の販売、医療用ガスの供給、機器のメンテナンス、入院セットの貸し出しなど、多岐にわたるサービスを提供しています。これは、創業者の増田喜八が掲げた「お客様から求められるものは全て提供する」という精神に基づいています。
弊社の創業地は二条烏丸付近で、実はあの辺りには京都の医療系企業の本社が多く集まっていました。烏丸通りの西側には「薬祖神祠」という医療に関係の深い神社もあり、昔から医療ビジネスの中心の地として知られています。そのような歴史ある土地で事業をスタートさせたことは、弊社にとっても大きな意味を持っています。
創業当初から、京都大学や京都府立医科大学との連携を通じて、地域医療に大きく貢献してきました。これらの大学病院とともに成長してきたと言っても過言ではありません。最先端の医療機器を求めるニーズに応えることで、弊社も技術的に鍛えられてきました。
田淵常勤監査役(以下、田淵):また、平成10年(1998年)に戸島耕二(現代表取締役会長)が弊社に入社しました。当時、会社の体力が低下している時期でしたが、財務基盤の強化に取り組みました。その結果、自己資本比率を30%まで引き上げ、経営の安定性を高めることができました。これにより、地域経済との繋がりも深まり、多くの経済団体に参加するなど、社会的な信頼を築くことができました。
ー地元・京都市に密着した社会貢献活動ー
竹内:地域との関わりについてもお聞かせいただけますか。
藤冨:弊社は京都市伏見区に本社を構えており、この地域との結びつきを大切にしています。伏見区は観光地としては洛中に比べるとやや控えめかもしれませんが、近隣には大企業もあり、産業の集積地としてのポテンシャルがあります。
田淵:地域貢献活動として、子ども食堂への寄付を行っています。具体的には、自動販売機で飲み物を購入すると、その一部が子ども食堂に寄付される仕組みを導入しています。また、伏見区にある公園のネーミングライツを取得し、「増田医科器械ふれあい公園」と名付けました。地域の方々に親しまれ、コミュニティの活性化に一役買っています。さらに、コロナ禍では防護服やマスクの寄付なども行いました。医療機器を扱う企業として、少しでも地域医療に貢献できればと考えています。
地域経済との繋がりも深めています。戸島会長は京都商工会議所の議員を務めており、経済界との連携を強化しています。また、「東高瀬川ビジネスコミュニティ」に参加し、半導体や医療産業の振興に向けた取り組みを進めています。これは、サムコ株式会社の辻理代表取締役会長が立ち上げられたプロジェクトで、地域から世界に発信できる産業を育てたいという思いがあります。
ー「経営は人である」社員重視の経営方針と福利厚生ー
竹内:社員重視の経営方針についても、詳しくお聞かせください。
藤冨:弊社では「経営は人である」という考え方を重視しています。社員が安心して働ける環境を整えることで、会社全体の活力が高まると考えています。
田淵:具体的な取り組みとして、奨学金を借りている社員に対して、会社で低金利且つ長期返済に借替えできる制度を用意しサポートしています。これにより、社員の経済的な負担を軽減し、長期的なキャリア形成を支援しています。
藤冨:また、特別休暇の提供や、人間ドックに加えてがん検診も会社負担で実施しています。健康面でのサポートを強化することで、社員一人ひとりが安心して働ける環境を作っています。
田淵:物価高騰対策として、一人当たり20万円の手当を支給したり、お子さんの入学時には10万円のお祝い金を提供しています。さらに、社員の大事な人のための特別休暇を付与するなど、家族を大切にする文化を醸成しています。
藤冨:95周年の際には、社内公募で記念ロゴを作成しました。最優秀賞には100万円の賞金を贈呈し、社員のモチベーションアップにつなげました。こうした取り組みを通じて、社員を大切にする企業文化を育んでいます。
ー組織作りと心理的安全性の確保ー
竹内:組織作りや心理的安全性の確保についての取り組みを教えてください。
藤冨:弊社は急成長してきた背景もあり、組織としての整備が必要だと感じています。社員が自由に提案できる風土や、心理的安全性を高めるための取り組みを進めています。具体的には、社員同士の情報交換やシンポジウムを開催し、中途入社の社員や他社から来た社員との交流を深めています。これにより、社内のコミュニケーションを活性化し、組織全体の一体感を高めています。
田淵:また、60歳定年制ですが、貢献度に応じて70歳まで働ける制度を設けています。役職定年もなく、実力があれば年齢に関係なく活躍できます。例えば、60歳を超えてもマネージャーとして現役で働いている社員もいます。
藤冨:若手社員からの新しいアイデアや意見をボトムアップで取り入れる体制づくりにも力を入れています。提案できる風土を醸成するために、「アンコンシャスバイアス(無意識の思い込みや偏見)」や「心理的安全性」をテーマにした研修を新任の主任や課長を対象に実施しています。
社員一人ひとりが意見を言いやすい環境を整えることで、組織全体の活力が増します。特に若手社員には、コンセプチュアルスキル(本質を見抜く力)や課題特定能力を身につけてほしいと考えています。現象的な課題だけでなく、根本的な問題を見極める力が重要です。
ー「3KATSU」で組織の活力を高めるー
竹内:女性活躍推進や多様性の尊重についてはいかがでしょうか。
藤冨:今年度は「3KATSU」をテーマに掲げています。これは、「女性活躍」「若手活躍」「ベテラン活躍」の三つの活躍を推進するものです。
田淵:特に女性活躍については、採用の段階から女性比率を高める取り組みを行っています。今年の新卒採用では、約半数を女性が占めました。これは、女性社員が増えることで組織の多様性が高まり、新しい発想やアイデアが生まれると期待しています。2028年度には、女性の課長職10名、次・部長職3名の数値
藤冨:女性社員の活躍を後押しするために、小グループでの対話や情報共有を行っています。経営陣が直接女性社員と話をすることで、課題やニーズを把握し、働きやすい環境づくりに努めています。
また、ベテラン社員については、その経験や知識を若手に伝える役割を期待しています。年齢で区切るのではなく、貢献度や意欲に応じて役割を担ってもらうことで、組織全体の活力を維持しています。
ー多角的な知見を持つ人材の育成ー
竹内:人材育成について、特に多角的な知見を持つ人材の育成についてお考えをお聞かせください。
藤冨:弊社は医療機器の商社であり、営業が中心です。新人社員はまず営業に配属され、医療の専門知識を身につけながら成長していきます。医療の営業は、相手が国家資格を持つプロフェッショナルですから、高度な専門知識と人間力が求められます。
田淵:研修やOJTを通じて社員の成長をサポートしています。特にプロジェクトへの参加を促し、部門間の交流を推進しています。これにより、異なる視点や知識を吸収できる環境を整えています。
藤冨:営業パーソンには、先読み能力が重要です。お客様のニーズを的確に捉え、提案できる人材が求められます。専門知識を持つスペシャリストと、総合的に病院を担当するジェネラリストの両軸で組織を運営しています。
我々は異業種・異文化との交流や研修によって、多様な視点や知識を持つ人材を育成したいと考えています。実際に、幹部候補生には外部の研修に参加してもらい、他社の人たちとディスカッションをする機会を提供しはじめております。
なぜ異業種や異文化との交流研修をしようとしているかというと、「気づき」を得てもらいたいからです。「気づき」は社内ではなく社外の人からの方が得やすいと考えました。しかも同世代や同クラスの人からの方がより強く気づきが得られると考えました。
私自身も社会人になってからMBAを取得しました。営業やマーケティングだけでなく、経営全般の知識を学ぶことで、視野が広がりました。他の企業の人たちとの交流を通じて、多くの刺激を受けました。「同世代にこんなにすごい人がいるんだ」と焦りを覚えました。
ー「異文化との他流試合」で新たな発見をー
竹内:先ほど、異業種・異文化との交流についてお話がありました。具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか。
藤冨:はい、弊社では社員が社外のさまざまな分野の人々と交流し、新しい視点やアイデアを取り入れることを奨励しています。これを「異文化との他流試合」と呼んでいます。具体的には、異業種交流会や外部の研修プログラムに社員を積極的に参加させはじめております。
例えば、幹部候補生には他企業の管理職やリーダーと一緒に研修を受ける機会を提供しています。そこで得られる他社の取り組みや考え方は、非常に刺激的で学びが多いです。異なる業界の方々とのディスカッションを通じて、自社では気づかなかった課題や改善点に気づくこともあります。
田淵:社員からも非常に好評です。外部の研修に参加した社員からは、「自分たちの視野がいかに狭かったか気づいた」「他社の良いところを自社にも取り入れたい」という声が多く寄せられます。帰社後には、学んだことを社内で共有する場を設けており、それがまた組織全体の活性化につながっています。
特に若手社員にとっては、大きな刺激となっているようです。異業種の同年代の人たちがどのような考え方で仕事に取り組んでいるのかを知ることで、自身のキャリアやスキルアップについて考える良い機会になっています。
医療業界は専門性が高く、どうしても業界内の常識にとらわれがちです。しかし、異なる業界の成功事例や革新的な取り組みを知ることで、新しい発想やサービスにつなげることができます。
ー学び直しの重要性とキャリア形成ー
竹内:学び直しの重要性についてもお聞かせください。
藤冨:学び直しを通じて、新しい視点や知識を得ることは、個人の成長だけでなく、組織の発展にもつながります。社員が自己啓発やスキルアップを図ることを、会社としても支援しています。
また、異業種との交流を通じて、他の企業がどのような取り組みをしているのかを知ることも重要です。これにより、自社の課題を客観的に捉え、改善につなげることができます。
ー学生へのメッセージと求める人材像ー
竹内:これから社会に出る学生や若手社員に向けてメッセージをお願いします。
藤冨:いろいろな経験を通じて視野を広げてください。遊びでもアルバイトでも、新しいことに挑戦することで得られるものは大きいです。私自身、大学時代にアルバイトを三つ掛け持ちしていましたが、その中で商売のいろはを学びました。
田淵:社会の常識やマナーを身につけることも大切です。柔軟な思考と行動力を持って、社会で活躍してほしいですね。一般的な常識や礼儀作法は、いろんな経験を通じて自然と身についていくものです。
藤冨:弊社としても、チャレンジ精神旺盛な方、自ら壁にぶつかり成長していく意欲のある方を求めています。課題にぶつからないと人は成長しないと思いますので、どんどん挑戦していただきたいです。
田淵:視野を広げるために、多くの人と交流し、様々な文化や価値観に触れることも重要です。そうした経験が、将来のキャリア形成に大いに役立つでしょう。
ー龍谷大学での経験とネットワークー
竹内:藤冨さんは龍谷大学のご出身と伺いました。本プログラムでは龍谷大学さんと連携をさせて頂いております。最後に龍谷大学での学生時代についてお聞かせください。
藤冨:龍谷大学では、自由な環境で新しいサークルを立ち上げたり、いろいろなことに挑戦できました。その中でハングリー精神を養えたと思います。社会に出てからも、その精神が役立っています。
龍谷大学への入学がご縁となり、お寺でアルバイトをしました。お朝事や法要や行事のお手伝いをし、貴重な経験でした。お寺でのアルバイトを通じて、礼儀作法や人との繋がりの大切さを学びました。
おわりに
株式会社増田医科器械様は、創業95年の歴史を持ち、医療機器の総合ディーラーとして地域医療を支え続けておられます。インタビューを通じて、同社が「人」を中心に据えた経営を実践し、社員一人ひとりの成長と心身の健康を追求していることを強く感じました。
特に印象的だったのは、効果的な気づきを得てもらうために「異文化との他流試合」を積極的に推進している点です。社員が異業種や異分野の専門家と交流し、新しい視点やアイデアを取り入れることで、組織全体の活力を高めています。
また、社員の学び直しを支援し、外部研修への参加を奨励するなど、個人の成長が組織の発展につながるという考え方を実践されています。これにより、社員が多角的な知見を持ち、先読み力を養うことで、お客様のニーズに的確に応えられる体制を築いておられました。
これらの取り組みは、まさに私たちが推進する「ソーシャルイノベーション人材養成プログラム」にも通づる部分だと思います。本プログラムでは、龍谷大学大学院政策学研究科、琉球大学大学院地域共創研究科、京都文教大学大学院臨床心理学研究科という異なる専門性を持つ大学が連携し、地域社会に貢献する人材を育成することを目指しています。異なる専門性や視点を掛け合わせることが、新たな社会課題の解決策やイノベーションを生み出すことに繋がると考えています。
株式会社増田医科器械様の取り組みから、異文化との他流試合や多様な経験が、組織や個人の成長に不可欠であることを改めて実感しました。
私たちも、多様な専門性を持つ人々が協力し合い、社会課題の解決やイノベーション創出に貢献できる人材を育成していきたいと思います。
京都文教大学 地域企業連携コーディネーター
竹内良地
「大学連携型ソーシャルイノベーション人材養成プログラム」のご紹介
龍谷大学大学院政策学研究科、琉球大学大学院地域共創研究科、そして京都文教大学大学院の3大学院が連携し、次世代のソーシャルイノベーション人材を育成するためのプログラムです。このプログラムでは、社会課題を多面的な視点から分析する力や、異なる領域の知見を統合し新たな価値を創出する力を養います。持続可能な社会の発展に貢献できる人材を育成することを目指し、臨床心理学の知見を活かしながら、社会課題解決に向けたイノベーションのプロセスやデザインを描けるイノベーション人材、そしてそのイノベーション人材を支援する心理専門家を育てていきます。
公式ホームページ:https://www.kbu.ac.jp/kbu/siprg/index.html