Topics 2024 2024年度ニュース・プレスリリース一覧
2024.10.22
【株式会社Kurosaka黒坂由美子氏】社会課題の解決に大切なことは、自分の価値観に気づくこと
はじめに
株式会社Kurosakaは、創立73年の歴史を誇る金属塗装の専門業者です。一般的に塗装業と聞くと、効率や技術力が重視される業界とイメージされがちですが、Kurosaka様が実現しているのはそれだけではありません。営業部を持たずに大手企業から多くの案件を受注している同社。その背景には、塗装技術の高さや効率化の工夫に加え、社員同士のコミュニケーションを重視し、信頼関係を築く企業文化がありました。本インタビューでは、Kurosakaの専務取締役である黒坂様に、同社の成功の秘訣や、変化に柔軟に対応し続ける姿勢、そして臨床心理学的な視点を活かしたコミュニケーションの重要性についてお話を伺いました。
株式会社Kurosaka
創立 :1951年2月
事業内容:金属焼付塗装(電着・溶剤・粉体)、パーカーライジング加工、その他付帯事業
住所 :〒610-0231京都府綴喜郡宇治田原町立川金井谷19番地16
H P :https://www.kurosaka.co.jp/
インタビュー実施日:2024年9月19日(木)
-営業部のない塗装会社が大手メーカーの案件を多数受注-
竹内良地(以下、竹内):御社の事業内容について教えてください。
黒坂由美子(以下、黒坂):私たちは創業73年、金属塗装の専門業者です。大型の部材もお預かりできる工場面積と、多彩な塗装技術を持っているという強みを活かして、多くの大手メーカーさんからお仕事をいただいております。弊社には営業部がないんですが、納入実績、規模ともに京都の塗装業では一番と自負しております。
竹内:営業部がないというのはユニークですね。規模や技術以外に、仕事を受注できる秘訣があるのでしょうか。
黒坂:社長自ら「お客様が何か困られていることはないか?」を、伺うようにしているからですかね。たとえ仕事に繋がらなくても、弊社で塗装していない品物であっても、相談に乗って差し上げることで、別の仕事の紹介に繋がることもあるんですよ。
竹内:最近ではロボットを導入するなど、先鋭的な技術も導入されていますね。
黒坂:いくつかのチャンスが重なって、ロボットの導入を決めました。直接的なきっかけは人が減ってしまったことなんですが、社長が以前から思っていた「こういう動きができるロボットがあったらいいのに」というロボットが出てきたこと、ロボット導入に対する補助金制度が始まったことも大きかったですね。
竹内:もう一つ印象的な施策として、インカムの導入があります。どのような使い方をされているのでしょうか。
インカムは、シンプルに連絡手段として使っています。でも効果は大きいですよ。騒音で声が聞こえにくい工場内でも大声でやり取りすることなく、普通の声で伝わるため、以前より雰囲気が穏やかになりました。事務所と製造課のやり取りも、よりタイムリーに情報が伝わるようになりました。
驚いたのは、インカムを導入してから「皆こんなに話すんだ?!」っていうくらい交信が絶えず行われていることですね。ただ、1チャンネルしかないので、誰かが話し終わるまで他の人が話せないという状況にもなって、そこはちょっとした悩みどころです(笑)
-コミュニケーションに必要なのは「相手を知ろうとする姿勢」-
竹内:お話を伺って、人と人との関係性をすごく大事にされている会社だという印象を持ちました。そこにはどんな想いがあるのでしょうか。
黒坂:総務部長に就任して以来、悩んでいることがありました。従業員と面談をして、アドバイスをしても、なかなか行動に移してくれない、変わってくれない。変わらないから、また同じことを繰り返してしまう。でも、それは「私自身が同じことしか言えていないからじゃないか?」と気づいたんです。
それを知人に相談したら「インプットが足りないんじゃないか」と言われ、知人が参加するセミナーに一緒に参加することにしました。セミナーでは、コミュニケーションについて学ぶことが多く、社内のコミュニケーションを見直すきっかけになりました。
竹内:コミュニケーションについて、特に学びになったことはありますか?
黒坂:「相手が何に関心を寄せているのか」を理解する、ということですね。セミナーって、コーチングとかのスキルを学ぶところだと思っていたんですけど、スキルだけを学んでも、実際の現場では意外と使えない。環境や状況が、想定と異なると活用できないんです。だからスキルを学ぶだけでは不十分で、本当に大切なのは、相手を知ろうとする姿勢だということを学びました。
竹内:セミナーで得た知見を、社内での取り組みにどう反映させたんですか。
黒坂:朝礼で社員のプチ発表の場を設けたり、仕事には直接関係ない委員会活動を行ったり。取り組みのほとんどがセミナーから影響を受けています。
-前向きな発表と「勇気づけ」でみんなが笑顔に-
竹内:プチ発表では、どんな内容を話しているのですか?
黒坂:「昨日あった、よかったこと」を発表します。家族とのプライベートなできごとでも、仕事での仲間との関わりや、生産中のできごとでも、なんでもいいんです。社員がひとりずつ発表して、終わったら拍手をする。管理職は一人ひとりの発表に対して「勇気づけコメント」をします。
竹内:「勇気づけコメント」とは、どういったものですか?
黒坂:社員が行動したことを承認してあげる、というもので、「自分の気づきにもなった」とか「自分もやってみたいと思った」など、発表から得た学びを、部下に具体的に伝えるようにしています。
これは管理職のコミュニケーションスキル向上を目的としています。相手のモチベーションが少しでも上がるよう、前向きな言葉をかけるように心がけてもらっています。
竹内:プチ発表をはじめてから、変化はありましたか?
黒坂:大きな変化がありました。最初は管理職の中にも「こんなことやりたくない」と言う人がいました。「プチ発表」という言葉もイヤやとか、拍手もしたくないとか。でも、やり続けることで、みんなが笑顔になると「やってよかった」と感じてくれるようになりました。前向きな発言が周囲に与える影響を、実感できるようになったんです。
とはいえ、まだまだ難しい部分もあって、感想文のようになってしまうことも多々ありました。そこは私や社長が指導しながら、管理職の人たちも少しずつ学んでいるところです。
-家族ぐるみの交流も生まれる社内プロジェクト活動-
竹内:委員会活動の内容も気になります。
黒坂:「楽しいことをしよう」をテーマに、火曜日の朝に20〜30分間、部署に関係なく人が集まって活動しています。野菜を育てている人もいれば、勉強している人もいるし、私と一緒にお散歩している人もいます(笑) 基本的には全社員参加で、常時5つほどの委員会が活動しています。
最初は管理職がチームリーダーをしていましたが、一昨年から持ち回り制になりました。そこで若手の女性社員がリーダーになると、活動が一気に活発化しました。やりたいことを明確に提案してくれるし、毎週の準備もしっかりやってくる。管理職がリーダーだと、「先週は何をやったっけ?」となることもあり、活動が下火になるチームもあったんですが、若手がリーダーを務めるようになってからは、活気がぐんと増しました。
今週末は、メンバー全員で小アジを釣りに行って、南蛮漬けにするそうですよ。もちろん業務外の時間ですけど。家族を連れていくメンバーもいるみたいです。
竹内:黒坂さんの工夫で、社内のコミュニケーションがどんどん活発になっているんですね。
黒坂:そんなに狙ってやっているわけでもないんですけどね。私が「これが楽しそうやな」っていったら、社長が「ええんちゃう?」って。社員たちも「次はなんや?」って興味を持ってくれるので、みんなが楽しんでくれているんだと思います。
竹内:こういった福利厚生が採用に影響している部分はありますか?
黒坂:採用のときは、福利厚生のことはほとんど言わないんです。募集要項にもほとんど書かない。福利厚生だけで入ってこられた人は、だいたい辞めてしまうので。
大事なのは「変化を楽しめるかどうか」ということ。変化が、次の変化を引き起こすことで、高い目標に到達できる。うちはずっとそうやってきました。だから、同じことをずっとやりたい人は、うちには合わないと思います。
-休暇を計画することも働きがいにつながる。SDGsの取り組み-
竹内:SDGsの取り組みを2つ、ホームページに書いておられます。1つが「働きがいも経済成長も」ですが、具体的な取り組みについて教えてください。
黒坂:何に働きがいを感じるかは、人によって違うと思います。大きい意味では何かに貢献できていると感じられるか、それが会社の仕事の内容に対する貢献である人もいれば仲間の役に立つという貢献の人もいれば、家族や友人との関りにおける貢献に価値を感じる人もいると思います。
そんな中で、家族や友人との時間を持つことで癒されたり癒したりという場面が多いと満足度が高まる「働きがい」につながる。そんなメンバーが多いように感じます。
私達の会社では、長期連休が年に4回あります。3回は全員同じタイミングで休みますが、1回はリフレッシュ休暇といって好きな時に予約して休暇を取得していきます。最初4日連休で始まり1日づつ増やし9連休までいきます。
計画的に休むことは、家族との時間、自分の時間をどう使って充実感を更に高めるか重要だと思っています。そこから働きがいに繋がることも多いのではないでしょうか。
私も来月リフレッシュ休暇を取りますよ。普段一人で行動することってほとんどないんですけど、今回は一人で映画に行ったり、少し高級なランチに行ってみようと計画中です。やったことないことをやってみることで、見えるものがあると思うんです。
竹内:黒坂さんがチャレンジをすることで、その経験を共有できるし、社員の皆さんも目標にできるんですね。もう1つ「つくる責任つかう責任」を挙げられています。
黒坂:塗料というのは、実はものすごくムダが多いんです。工程上使用する、だけど製品には塗られない塗料が大量に発生する。廃棄するのにも、すごい費用がかかる。それをどうにかして減らしたい。今は滋賀県立大との産学連携で研究をしています。
ほかにも、焼付け塗装に使う熱源をほかのところに使えないかとか、もっと低温にして燃料の消費を減らせないかとか...社長も常に調べたり、探したり、相談できる相手がいれば相談しに行ったり、チャレンジを続けています。
-外国人プログラマーを受け入れ、中小企業のDXを推進-
竹内:社会課題の解決というところでいくと、雇用の支援という意味で、外国人の受け入れもされているそうですね。
黒坂:ベトナム在住のプログラマーの受け入れを進めています。先ほどお話した通り、うちもロボットを導入しましたが、ロボットを動かすためのプログラムを書ける人がいない、という現実に直面しました。私たちが困っているということは、ほかにも困っている会社がきっとたくさんある。そう思ったことが、立ち上げのきっかけです。
ベトナムには若手の優秀なエンジニアがたくさんいます。かつて日本には技能実習生の外国人がたくさんいましたが、いろいろな問題があって下火になり、今はうちにも1人もいません。
でもコロナ以降、リモートでのデータ共有が容易になりました。ベトナムで働いてもらいながら、データをやり取りすれば、日本側の課題を解決できる。現地での雇用を生みつつ、こちらも進化していける。最終的には、中小企業のDXをサポートできるような会社になりたいですね。
竹内:将来的には、DX事業も見据えている?
黒坂:実は、すでにパンフレットも作っています。図面を描く人材がいない企業に対して、私たちが窓口となって、ベトナムのリソースを提供する。そうすれば、小さな会社でもDXは進めることができるし、コストも抑えられる。私たち自身がロボット導入で苦労したからこそ、他の企業の支援をしたいという思いがあります。
-「彩る」ことで新しい時代を創っていきたい-
竹内:今年は社名の変更をされたそうですね。(旧社名:株式会社黒坂塗装工業所)変更にあたって、どのようなビジョンを描いていらっしゃるのでしょうか。
黒坂:塗装以外にもチャレンジできる環境を整えたい。これが社名を変更する大きな理由です。鉄という素材は必ず朽ちるので、その保護に塗装は不可欠です。ただ、時代の変化、技術の進歩に合わせて、全体的な需要はやはり減っていく。そこで私たちは「色」に関わる分野をもっと広げていきたいと考えているんです。
社長が「人は色で物を選ぶ」とよく言っています。趣味嗜好が表われる「色」というものが、完全になくなることはないだろうと。塗装というと、どうしても「物を塗る」というところにしか意識がいきませんが、「彩る」という意味で仕事の幅を広げていければ、新しい展開があるんじゃないかと思います。
今後、塗装が必要でなくなる時代も来るかもしれません。樹脂にはすでにそういった技術が登場していますよね。でも、たとえ塗装レスの時代が来たとしても、別の分野でチャレンジすればいい。そういう気持ちで若い人たちが次の時代を創っていってくれれば嬉しいです。
-コミュニケーションで「不安」を「安心」に変える-
竹内:新たなチャレンジに向けて、一緒に働ける仲間を募集をされていると伺いました。あらためて採用について、御社が求める人材について教えてください。
黒坂:チームの中で自分の役割を果たせる人、新しいものを作り上げることに喜びを感じられる人がいいですね。
今年、社員全員に適性検査を実施したんですが、その結果がとても興味深いものでした。「現状を維持し大切にするタイプ」が8割以上を占めていて、「冒険的にチャレンジをするタイプ」はごく少数だったんです。これには驚きました。
面接では、多くの人が「チャレンジしたい」と言いますが、いざ自分自身を変える必要があるとなると、抵抗を感じる人が多い。抵抗の根本には、不安があると思うんです。だからこそ、コミュニケーションを通じて、安心できる環境を整えることが重要です。その環境の中でみんなが一緒に未来像を描ければ、挑戦への心理的なハードルは下げられると思っています。
適性検査では現状維持型の人が多いとはいえ、夢やなりたい自分を持っている人もたくさんいます。私たちはそういった人たちと一緒に「新しい自分を見つける」「変わることができる」という過程を共に経験していきたい。
だから、個人で成果を挙げたいというタイプより、チームの中で自分が少しでも貢献できたことに喜びを見出せるような人と、一緒に仕事をしていきたいですね。
竹内:中間管理職など、ミドル層に対してはどうですか?
黒坂:小さなコミュニケーションをくり返しできる人、ですかね。 ベビーステップという言葉がありますが、今気づいたことをその日のうちに、具体的に実行に移せる人です。
どうしても「言うたからわかってるやろ」みたいな、言いっぱなしで終わってしまう人が多いのですが、部下に対して「今何ができるか?」と確認し、一歩踏み出すための状況作りができる。そして、決定事項に対して「具体的にどう行動するか」というフォローをし続けることで、組織を機能させていく。このくり返しをできる能力が、ミドル層には求められます。
-社会課題の解決に大切なことは、「自分の価値観に気づくこと」-
竹内:今回のプロジェクトは、学生を対象に「心理を学び"ソーシャル・イノベーション人材"を育成する」がコンセプトです。これから社会で活躍したいと思っている方々に対して、メッセージをお願いします。
黒坂:社会の様々な課題を解決する際に大切なのは、「自分の価値感に気づく」ということです。私自身が大きく変わったのも、自分の価値感に気づいてからです。
若い人に限らず、自己肯定感が低い人が多いと感じていますが「自分は何を大切にしているのか?」ということに気づけると、選択や決断の場面で迷いがなくなります。学びで気づけるのか、振り返りで気づけるのか、それは人それぞれだと思いますけど、自分の価値観が満たされれば、自己肯定感はきっと上げられます。
同時に、「こうでなければならない」とならないように、注意が必要です。自分はこうだけど、相手も同じではない。ただ、相手と違うからダメなのではなくて、違うけど、共通する部分はあるんじゃないか、と考える。この案件では意見がぶつかっちゃうけど、目指す方向は合わせられるんじゃないか、共有できる部分は何か、という考え方を常に持っていると、ずっと楽に、自分も周りも、生きやすい社会が創れるんじゃないかと思います。
おわりに
塗装業と聞くと、技術や効率の追求が主軸であり、機械的な側面が強い業界という印象を持たれるかもしれません。しかし、黒坂様のお話を伺う中で、塗装業においてもコミュニケーションがいかに重要な役割を果たしているかを強く感じました。
特に印象的だったのは、黒坂様が強調されていた「相手を知ろうとする姿勢」です。コーチングやコミュニケーションのスキル以上に、この姿勢こそが、社員間の信頼と協力を築き、生産現場での円滑なやり取りを生んでいることを感じました。インカムを使った現場でのコミュニケーションの改善や、朝礼でのプチ発表、委員会活動を通じた家族的なつながりが、ただの効率改善にとどまらず、社員一人ひとりが自主的に働きかける環境を作り出しています。最初は反発もあったというプチ発表も、続けていくことで社員全員が前向きな姿勢を持つようになり、笑顔が生まれる文化が根付いたことには大きな驚きを感じました。
京都文教大学 地域企業連携コーディネーター
竹内良地
「大学連携型ソーシャルイノベーション人材養成プログラム」のご紹介
龍谷大学大学院政策学研究科、琉球大学大学院地域共創研究科、そして京都文教大学大学院の3大学院が連携し、次世代のソーシャルイノベーション人材を育成するためのプログラムです。このプログラムでは、社会課題を多面的な視点から分析する力や、異なる領域の知見を統合し新たな価値を創出する力を養います。持続可能な社会の発展に貢献できる人材を育成することを目指し、臨床心理学の知見を活かしながら、社会課題解決に向けたイノベーションのプロセスやデザインを描けるイノベーション人材、そしてそのイノベーション人材を支援する心理専門家を育てていきます。
公式ホームページ:https://www.kbu.ac.jp/kbu/siprg/index.html