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【ダイジェスト記事版】京都文教大学OB起業家・村中直人氏が語る「ニューロダイバーシティを通じて起こす社会変革」

はじめに

今回は、京都文教大学大学院のOBでありNeurodiversity at Work株式会社の代表取締役である村中直人さんに、現在同大学院に在籍し将来は産業領域で活躍する臨床心理士を目指す篭原千佳さんがインタビューをした様子をお届けします。

テーマは『ソーシャルイノベーションと産業臨床心理学』です。

本インタビューでは、村中氏が産業臨床心理学の知見をどのように事業に応用し社会に貢献しているのかを深掘りし、今後の展望をお伺いしました。

京都文教大学OBの起業家2人が語る「ソーシャルイノベーションと産業臨床心理学」 (2).png


出演者紹介

スペシャルゲスト:村中直人氏(Naoto Muranaka)

1977年生まれ。2005年に京都文教大学大学院臨床心理学研究科を卒業。臨床心理士・公認心理師。一般社団法人子ども・青少年育成支援協会代表理事、Neurodiversity at Work株式会社代表取締役。多様なニーズのある子どもたちが学び方を学ぶための学習支援事業「あすはな先生」や「発達障害サポーター'sスクール」の運営に携わり、著書に『ニューロダイバーシティの教科書――多様性尊重社会へのキーワード』(金子書房)がある。 2024年7月17日発売の最新著書『「叱れば人は育つ」は幻想 』(PHP新書)は、発売即重版となりAmazonベストセラー1位(精神医学ノンフィクションカテゴリー)を獲得。

インタビュアー:篭原千佳さん(Chika Kagohara)

2024年 京都文教大学大学院 臨床心理学研究科 博士前期課程1年に在籍。修了後は産業領域で活躍する臨床心理士を目指している。

インタビュー全編は、ぜひYouTube動画をご覧ください。

https://youtu.be/KZ4FnhG1hYQ


インタビュー内容ダイジェスト

インタビュー実施日:2024年7月4日(木)

-村中氏の過去から現在の活動について-

篭原千佳さん(以下、篭原): 村中さんの過去から現在の活動についてお聞かせください。

村中直人氏(以下、村中): 私が今何をやっているか説明するのに、少し時間を戻してお話ししますね。私は大学院を修了した翌年に臨床心理士の資格を取得しました。その当時の仕事は、教育関係のスクールカウンセラーや、大阪市の教育センターでカウンセラーをしていました。
時代的には、スクールカウンセラーバブルの終焉と発達障害ブームの入り口にあたります。最初は予算が潤沢で、残業も許可され、備品の購入も自由にできました。例えば、大阪市の教育センターでは、残業が必要であればいつでも行い、その分の時給も支給されました。カウンセリングルームの備品予算もあり、本や漫画を自由に購入できました。しかし、翌年には備品予算がなくなり、さらに翌年には残業も制限され、勤務時間も8時間から6時間に短縮されました。こうした状況を経験し、公的な仕組みに頼り切ることの危険性を強く感じました。

-起業しようと思ったきっかけ-

篭原: 起業しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

村中: スクールカウンセラーとして働いているうちに、教育現場での支援に限界を感じるようになりました。特に、発達障害の子どもたちの学習困難を解決するためには、カウンセリングルームだけでは不十分だと思いました。例えば、学校の先生が30分でできると思って出した宿題が、発達障害の子どもたちには1時間や2時間かかることがあります。その結果、親子で宿題に取り組む時間が長くなり、親子喧嘩が頻発するようになりました。親が忙しい夕方に子どもの宿題に付き添うことは、親子双方にとって大きなストレスとなり、毎日のように喧嘩が起こることもありました。
カウンセリングルームで心理的な支援を行うことは大切ですが、現実的な学習支援が必要だと感じました。そこで、自分たちで学習支援の事業を始めることにしました。具体的には、臨床心理士や大学院生の仲間を集めて、「あすはな先生」という学習支援事業を始めました。当時集まった仲間の多くは、臨床心理学を学ぶ大学院生で、彼らと共に事業を進めました。
「あすはな先生」公式HP:https://asuhana.jp/

-大学での活動や大学院生との協力-

篭原: 大学での活動や大学院生との協力について教えてください。

村中:大学時代は大阪市立大学(現大阪公立大学)で学び、大学院は京都文教大学に進みました。大学院時代には、手話サークルに参加していたこともあり、耳の聞こえない学生をサポートするためのノートテイク制度を立ち上げました。学部にも大学院にも耳の聞こえない学生がいて、私は手話を使って彼らをサポートしていました。高石先生の授業で耳の聞こえない学生がいたことがきっかけで、ノートテイク制度を整える必要性を感じました。そこで、ノートテイク制度とその養成講座を作りました。当時の手話を学んでいた後輩たちも巻き込んで、この制度を立ち上げました。
また、私が始めた学習支援事業「あすはな先生」も、当時の大学院生たちの協力を得て発展しました。私は大学院生たちに声をかけ、やる気のある人たちを集めて彼らに講師を務めてもらいました。これにより、学習支援の質を高めることができました。

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-大学時代に臨床心理学で学んだこと-

篭原: 大学時代に臨床心理学で学んだことについてお聞かせください。

村中: 大学では、基礎的な臨床心理学の知識を学びました。特に深層心理学やロジャリアン的な発想を学び、個々の特性を理解し、それに合わせた支援を行うという考え方を身につけました。これらの基礎知識は、現在のニューロダイバーシティの活動にも通じています。
大学院時代には、さらに深く臨床心理学を学び、理論と実践の両方を磨きました。私が特に感謝しているのは、大学院で培った「個を理解して、個に合わせて動く」という発想です。この考え方は、ニューロダイバーシティの概念そのものであり、現在の支援活動の根幹をなしています。さらに、ニューロダイバーシティを広めるためには、神経科学や認知科学の知識も重要であると感じ、独学でこれらの分野を学びました。専門知識を持つことで、より具体的で効果的な支援が可能になりました。

-臨床心理学の知見をどのように事業に活用しているか-

篭原: 臨床心理学の知見をどのように事業に活用されていますか?

村中: 臨床心理学の知見を活用する上で、「個を理解して、個に合わせて動く」という発想は、ニューロダイバーシティそのものです。この考え方をベースに、私たちの事業では企業や教育現場での支援活動を行っています。例えば、企業向けにニューロダイバーシティのコンサルティングを提供し、職場環境の改善を図っています。具体的には、障害者雇用を推進するだけでなく、全ての社員が自分らしく働ける職場づくりを目指しています。
また、発達障害の子どもたちやその保護者との関わりの中で、学習困難を抱える子どもたちに対して具体的な支援方法を提供しています。臨床心理学の知見を活かして、個々の特性に合わせた支援を行うことで、効果的な支援が実現できています。このようにして、臨床心理学の基本的な考え方を実践に取り入れることで、ニューロダイバーシティの理念を具体的な形にしています。

-ソーシャルイノベーション実践による成功例と課題点-

篭原: ソーシャルイノベーションの実践における成功例や直面した課題について教えてください。

村中:まだ全然道半ばなので、何も成し遂げていないと感じていますが、ニューロダイバーシティの概念を広め、多くの企業や教育機関での理解を得たことがあります。例えば、Neurodiversity at Workという会社を設立し、企業からの講演依頼やコンサルティングを通じて、職場のニューロダイバーシティを推進しています。
また、2020年には『ニューロダイバーシティの教科書』という本を執筆し、これが日本初のニューロダイバーシティの概念を紹介する書籍となりました。この本を通じて、多くの人にニューロダイバーシティを知ってもらうことができました。

しかし、課題としては、まだまだ多くの人々にこの概念が浸透していない点があります。特に、教育現場や産業領域での理解が進んでいないと感じています。例えば、文部科学省の公式文書には「ニューロダイバーシティ」や「脳の多様性」という言葉が一度も出てきていません。
また、経済産業省がニューロダイバーシティを推進するためのウェブサイトを作成したものの、その内容は主に障害者雇用に限定されています。ニューロダイバーシティの考え方を広く社会に浸透させるためには、教育や産業領域での理解を深めることが必要です。これからも、さらに多くの人にニューロダイバーシティを理解してもらうための活動が必要だと考えています。

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-ソーシャルイノベーション実践による学び-

篭原: ソーシャルイノベーションの実践から得た学びは何ですか?

村中:まず、ニューロダイバーシティというキーワードを社会変革に繋げるためには、多くの方面での協力が必要だということです。例えば、文部科学省の公式文書にはまだ「ニューロダイバーシティ」という言葉が一度も出てきていません。これを現場の教育改革に反映させるには、認知的な特性が個人によって大きく異なるということを前提に、教育のあり方を変えていく必要があります。従来の一律一斉授業は、定型発達を前提としたものであり、それでは多様な学習ニーズに対応できません。私たちの教育システムは「ニューロユニバーサリティ」(脳や神経の仕組みはみんな同じで、少数の例外だけが存在するという発想)に基づいているため、これを「ニューロダイバーシティ」(脳や神経の多様性を認めるという発想)に転換することが必要です。

また、働く現場でも同様の変革が求められます。従来のレンガモデル(全員が同じように働くことを前提としたシステム)は行き詰まりを見せており、個々の特性に合わせた働き方を実現するIshigaki(石垣)モデル(個々の形に合わせて柔軟に組み上げるシステム)への転換が必要です。これにより、働く人々が自分らしく活躍できる環境が整い、メンタルヘルスの問題も減少するでしょう。臨床心理士がニューロダイバーシティの推進者として企業に働きかけ、職場の風土作りや仕組み作りをサポートすることは、新しい職域を開拓する上でも重要です。

-今後の展望やビジョン-

篭原: 今後の展望やビジョンについてお聞かせください。

村中:今やっている事業をそれぞれもう少し大きくしたいと考えています。子どもたちの学習支援は10年以上続けていますが、規模としてはまだ小さいので、教室を増やしたり、支援を受ける子どもたちの数を増やしたりしたいです。また、支援者養成の事業も拡大し、より多くの人に学んでもらえるようにしたいです。

個人的なビジョンとしては、ニューロダイバーシティというキーワードを通じて社会変革を進めていくことです。この概念が社会に広く浸透し、全ての人が自分らしく活躍できる社会を目指しています。具体的には、教育改革においては、ニューロダイバーシティの視点を取り入れたカリキュラムや授業方法を推進していきたいです。また、企業においてもニューロダイバーシティを基にした働き方改革を進め、より多様な人材が活躍できる環境を整えていきたいと考えています。

5年後、10年後には、「こういうふうに社会が変わった」と実感できるような成果を出したいと思っています。例えば、経済産業省との協力でニューロダイバーシティのイベントを開催したり、教育改革に取り組む専門家と連携してプロジェクトを進めたりしています。これらの活動を通じて、ニューロダイバーシティの概念が広く認識され、実践される社会を目指していきます。

-視聴者の皆様へのメッセージ-

篭原: 最後に、視聴者の皆様にメッセージをお願いします。

村中: 特に臨床心理学を学ぶ学生さんや、若手の臨床心理士さんにお伝えをしたいのですが、今ある仕事のパイを奪い合う発想だけだとちょっとしんどい時代に確実に入っています。これは臨床心理士だけではなく、他の業界もそうですが、臨床心理士の業界はその先進事例だと思います。そのため、基本的には自分で自分の仕事を作るという発想を持った方が良いと思います。私たちのように自分で企業を立ち上げるのでも良いですし、先進的な取り組みをしている人のところへスタッフとして入ることも良いと思います。最低限の収入を担保しながら、副業的に新しい仕事をすることも良いと思います。とにかく、自分の仕事を自分で作る発想を根本的な考え方として持って欲しいと思っています。
もう1つは、自身の興味のあるテーマに出会ってしまったなと思ったらそれを逃さないことです。私もニューロダイバーシティというワードに出会った時は一生のものになるなと思いました。そのテーマに対して、自身のできることと収入の安定という2つの軸に取り組んでいくと、自分の納得がいく仕事や収入を得られるようになると思っています。

-最後に-

篭原: 皆さん、最後にお知らせです。ソーシャルイノベーション人材養成プログラムの詳細については、公式ホームページからご覧いただけます。ぜひご参加ください。本日はご視聴いただき、ありがとうございました。

「ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」公式ホームページ

https://www.kbu.ac.jp/kbu/siprg/index.html






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お問い合わせ窓口
京都文教大学大学院臨床心理学研究科(大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム担当)
〒611-0041 京都府宇治市槇島町千足80