アーカイブ

【実施報告】2022/10/26開催「文楽と日本人の心」

 本学客員教授である桐竹勘十郎師匠をお迎えし、臨床物語学研究センター主催イベント『文楽と日本人の心』を本年度も開催いたしました。当日は、180名以上の方にご参加いただき、人間国宝の技と語りに触れていただくことができました。

 令和4年は、1685年前から続く人形浄瑠璃の歴史のなかで、「文楽」という言葉が世に出て150年となる記念の年となるそうです。文楽の歴史に加え、文楽人形そのものや人形の動きを初めて見る方の為に、人形の中身や仕組をご紹介いただきました。DSC_0005.JPG

 「日本人の心の中には、人形という物が深く入り込んでいる」と語られる師匠。日本人は、太古の昔から土偶、埴輪、仏像など、人の形をした"モノ"に想いを捧げてきたといいます。ロボット研究に関わっておられたご経験からは「ロボットという言葉を聞くと、日本人は人型のロボットを思い浮かべるのに対して、外国の方は工業用の機械を発想するそうです」とのお話をいただきました。日本人と人形との間に強い結びつきがあるからこそ、人形浄瑠璃が始まり、「ドラえもん」や「アトム」などの様々なキャラクターが生み出されていったのかもしれません。
 今回のご講演では、人形を作り上げていく"人形拵え"の流れをご説明いただきました。文楽人形は、頭の部分の"首(かしら)"、肩と腰の部分を表す"胴"、そして着物などの‟衣裳"からなり、普段はバラバラに保管されているそうです。それらを、人形遣いが演目・役柄に合わせ、一つ一つ選び拵えていくことで、人形になるのだと解説されます。人形遣いの技だけでなく、道具・仕組みの一つ一つに意味があり、人形浄瑠璃の歴史の深さを感じました。また、師匠は「人形は、自分の性格も全部でてしまう、本当に怖い存在です。動かない日には『どうぞよろしく』とちゃんと挨拶をしてから出て行ってますが、55年もやっていたらそんな関係になるんです。人形拵えの時に一生懸命、役柄のことを考えながら拵える。そして公演中舞台で遣う、そうすると自分の分身のようになる。不思議なものです」と語られました。人形に自身の魂をうつすということが、人形遣いの神髄なのかもしれません。

DSC_0011.JPGDSC_0037.JPGDSC_0029.JPG

 文楽の実演では、「艶姿女舞衣」の一部をご披露いただきました。お園さんの悲哀を表現すると共に、客席からは見えない人形遣いの手をあえて見せる"後ろ振り"という型が含まれている演目です。三人遣いによる技と表現に会場中が魅せられていました。DSC_0038.JPG

 平尾和之センター長との対談では、「演じている時は言葉が無く、すべて動きだけで表現している」ということが話題にあがりました。演目中の動きは全て暗記されており、浄瑠璃が耳に入ると無意識に身体、感情が動くのだと師匠は話されました。最後に、「今日ご覧いただいて興味がわいた方は是非、実際に生の舞台を見に来ていただきたいです」と述べられました。新型コロナの影響もある中ですが、舞台公演も再開されているそうですので、是非、生の文楽に触れに会場へ足をお運びください。(学生スタッフ:花本和真)