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【実施報告】 2017/6/7 『セラピストのコミュニケーション能力を養うためのワークショップⅣ』

本学の客員教授を務めておられる劇作家の平田オリザ先生による「セラピストのコミュニケーション能力を養うためのワークショップⅣ」が6月7日に本学同唱館で実施されました。
 本学大学院の臨床心理学研究科の学生と新任教員を含む28名のグループを対象としたワークショップの様子を、聴講者約50名が見学しました。

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 多様な教育現場で平田オリザ先生が手がけてこられたワークショップの技法の一部を、その背景も含めて解説しながら実践をされました。いくつかのテーマにしたがってグループを作ったり、身体をうまく使って他者と協力しながら動くワークからはじまり、全員で支えて組み合った腕のうえを歩いたり、前転(!)させたりする大がかりなものも実施しました。

 こうした身体と心の結びつきを意識させるワークは近年の日本の教育現場でも導入されるようになったものの、こうした技法の多くが欧米のアングロサクソン的な思想や価値観のもとで考案されており、そのまま日本の教育風土に取り入れることの影響や、こうした身体接触を伴うワークに免疫のない日本人が「洗脳」されやすい点などは常に考慮しておき、「ワークショップというものに過度な期待をしないよう、これらは万能の技法ではありません」と平田先生は強調されました。

 ワークはさらに演劇的動作を含むものへ発展していきました。ボールの無い状態でキャッチボールの動作をすることと、ロープのない状態で大縄飛びの動きを実演することの違いにおいて、「多くの人が子どもの頃、大縄飛びで失敗したくないと思った感情や経験を共有していること」があるがゆえに、参加者たちは大縄飛びの動作をうまく演じられた可能性に気づかされ、そこから「物理的経験・精神的経験による、イメージの共有」の大切さが浮かび上がりました。こうした「イメージの共有」を構成していく努力こそが、コミュニケーションの相手(演劇の場合は観客)からの能動的な関心を引き出し、こちらのメッセージをより良く伝えるうえでのポイントになります。したがって「中身が良ければすべて伝わる」と思い込んで「見せ方」の工夫を怠ると、「中身にオリジナリティがあればあるほど、それについての経験を有する人が少ないため、実は伝わらないのです」と平田先生は指摘します。

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 最後は短い脚本を用いた実演を例に、「この人がどんなつもりで、どの立場で、その言葉を使ったか」を問うことで、「その人それぞれの文脈、コンテクスト」を意識していくコミュニケーションのあり方をより具体的に検討していきました。「同情(シンパシー)から共感(エンパシー)の教育へ」として「異なる他者の文脈(文化や習慣など)の多様性にたいして向き合い、共感できる心を育むこと」の重要性が論じられ、演劇的手法を取り入れることでそうした力を育成できる可能性が示唆されました。こうして今年も約3時間にわたってさまざまなワークによる濃密な学びの時間を共有することができました。

  当日の動画はこちらから ⇒  京都文教 大学生用  京都文教 短大生用  京都文教 教職員用