Topics 2026 2026年度ニュース・プレスリリース一覧
2026.06.11
【トランスコスモス株式会社 松田憲泰氏】臨床心理学の学びは、ビジネスの現場でどう活きるのか

はじめに
臨床心理学を学ぶ学生の中には、「この学びは、卒業後どのような仕事につながるのだろう」と考える人も少なくありません。
臨床心理学の進路と聞くと、カウンセラー、スクールカウンセラー、医療機関、福祉領域などを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、臨床心理学で培われる「人を理解する力」「相手の状態に気づく力」「話を聴き、関係性を築く力」は、企業やビジネスの現場でも大きな意味を持ちます。
今回は、京都文教大学臨床心理学部の卒業生であり、現在トランスコスモス株式会社でDX推進や新しい取り組みに携わる松田憲泰さんにお話を伺いました。
臨床心理学を学んだ松田さんは、なぜビジネスの道へ進んだのか。企業の現場で、臨床心理学の視点はどのように活きているのか。そして、京都文教大学で学ぶ学生・大学院生に伝えたいこととは。
「臨床心理学の学び」と「ビジネスの現場」をつなぐ、松田さんの実践と言葉から考えていきます。
トランスコスモス株式会社についてトランスコスモスは1966年の創業以来、優れた「人」と最新の「技術力」を融合し、より価値の高いサービスを提供することでお客様企業の競争力強化に努めて参りました。現在では、アジアを中心に世界36の国と地域・186の拠点で、お客様企業のビジネスプロセスをコスト最適化と売上拡大の両面から支援するサービスを提供しています。また、世界規模でのEC市場の拡大にあわせ、お客様企業の優良な商品・サービスを世界46の国と地域の消費者にお届けするグローバルECワンストップサービスを提供しています。トランスコスモスは、お客さまや社会と向き合い、構想から実行までを共に考え、共に挑み、共に実現してまいります。 |
オンラインインタビュー実施日:2025年5月18日(月)

トランスコスモス株式会社での仕事について
竹内:まず、現在ご所属されているトランスコスモス株式会社の事業内容や、松田さんのお仕事について教えていただけますか。
松田:トランスコスモスは、基本的にはIT系の企業で、その中でもアウトソーシング業務を中心に行っています。アウトソーシングというのは、本来であれば企業が自社で行っている事務業務、分析業務、IT関連業務、広告関連業務などを、外部に委託することです。企業にとっては、自社のリソースを本業に集中させることができるというメリットがあります。
私たちは、さまざまなクライアント企業の業務を一部受け負いながら、業務効率化やサービス改善を支援しています。最近では、AIを活用した分析や、新しいソリューションの開発にも力を入れています。
私自身は現在、DX推進部に所属しています。全国に多くの事業所がある中で、それぞれの拠点ごとにルールや運用が異なる部分があります。そこにDXやAIを活用することで、業務の効率化を進めていくことが、現在の主な仕事です。
若手時代に任された、大きな仕事
竹内:これまでのキャリアの中で、特に印象に残っているお仕事はありますか。
松田:アウトソーシングの仕事では、
まずは1~2席というかなり小規模なお仕事をいただき、
まず、業務拡大へ向けて、お客様に刺さる「提案」が必要です。しかし、
単に業務を請け負うのではなく、
竹内:それは入社何年目くらいの出来事だったのでしょうか。
松田:入社5年目くらいです。最初からかなり厳しい環境に置かれていたと思います。
人によっては、「なぜ自分だけこんな大変な環境にいるのか」と思うかもしれません。ただ、私は厳しい環境の方がチャンスもあると考えていました。結果的に、そういう機会に恵まれたのだと思います。
経営は「人間学」だと思った
竹内:松田さんは京都文教大学の臨床心理学部のご出身ですが、そもそも臨床心理学を学ぼうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
松田:もともとは、実家が会社を経営していることもあり、経済学や経営学の方向に進もうと思っていました。
ただ、浪人していた時期にいろいろ考える中で、経済や経営はテクニックだけではないと思うようになりました。経営をするということは、突き詰めると「人間学」なのではないかと考えたんです。
人の心を理解すること、カウンセリングや臨床心理を学ぶことは、経営にも非常に重要なのではないか。そう考えて調べていく中で、京都文教大学が小規模ながら臨床心理学にとても力を入れている大学だと知りました。そこから、経済・経営ではなく、臨床心理学を学ぶ方向に進路を変えました。
竹内:高校生の頃に、「経営は人間学だ」と考えるのはすごいことだと思います。何かきっかけがあったのでしょうか。
松田:実家が会社を経営しているので、小さい頃から家の中で、人やお金の流れを見ていたことが大きいと思います。
父はよく、「一人でできることには限界がある」と言っていました。いろいろな人に協力してもらおうと思うと、その人たちの心をつかまないといけない。お金や地位も一つの方法ではあるけれど、本質的には「一緒にやっていて楽しい」とか、「内容を理解してもらえている」といったことが大切だと話していました。
当時はあまり深く受け止めていなかったのですが、浪人中に改めて考える中で、「それは本当にそうかもしれない」と思うようになりました。
臨床心理学は、もっといろいろな場所で使える
竹内:京都文教大学で学ぶ中で、今のお仕事につながっていると感じる学びはありますか。
松田:一つは、「人の話を聞くこと」です。もう一つは、「こちらが答えを出すのではなく、相手を導くこと」です。コーチングにも近い考え方ですが、この二つは会社に入ってから非常に参考になりました。
一方で、当時感じていたこととして、進路の考え方が少し偏っていた印象もあります。臨床心理学を学ぶと、カウンセラーになる道しかない、という雰囲気が強かったんです。
でも私は、臨床心理学の知見は、企業でも地域でも、もっといろいろな場所で使えると思っていました。スクールカウンセラー、病院、大学に残るという道だけではなく、社会のさまざまな現場で活かせるはずだと感じていました。
竹内:松田さんは、学生時代からビジネスの世界で臨床心理学を活かすことを考えていたのですね。
松田:そうですね。最初は大学院に行って臨床心理士の資格を取ろうかとも考えていました。ただ、次第に「臨床心理士やカウンセリングの知見は、世の中でもっといろいろな使い方があるのではないか」と思うようになりました。
自分がカウンセラーになるだけではなく、ビジネスの現場で「臨床心理学はこんなに使える」と示していくことも大切なのではないか。大学2、3回生くらいの頃から、そう考えるようになりました。
視野を広げるために、外へ出る
竹内:その考え方は、どのように育まれていったのでしょうか。
松田:学生時代、京都文教大学の中だけでなく、他大学の活動にも触れるようにしていました。他の大学の学生と関わることで、文教との違いや、さまざまな考え方に出会うことができました。
そうした経験から、「もっと視野を広げた方がいい」と思うようになりました。
また、大学生の頃には、社会課題を知るためにフィールドワークにも取り組んでいました。大阪のあいりん地区に行ったり、炊き出しのような活動に関わったり、ハンセン病の歴史を学ぶために関連施設へ行ったりしました。
社会課題を考えるとき、法学には法学の切り取り方があり、経済学には経済学の切り取り方があり、臨床心理学には臨床心理学の切り取り方があります。私は、学部に関係なく全部学べばいいと思っていました。そこに非常に大きな意味を感じていました。
サークルも、自分でつくった
竹内:大学時代には、サークル活動などもされていたのでしょうか。
松田:大学では、サークルを3つほど作っていました。
一つは、大学生で映画をつくるサークル。もう一つは、大学にいろいろなニュースを届けるための新聞をつくる活動です。さらに、「ロード」という勉強会のサークルも作っていました。先生方にもお世話になりながら、1回生から4回生までが一緒に学ぶ場を運営していました。
多分、私は何かに所属するよりも、自分で作る方が性格に合っていたのだと思います。
個人を見る力と、社会を見る力
竹内:卒業後、トランスコスモスに入社され、その後、神戸大学大学院で国際経済学を学ばれたと伺いました。どのような思いがあったのでしょうか。
松田:トランスコスモスに入社して4年ほど働いた後、新しい知見を広げる必要があると感じました。
IT業界にいると、ITのことは詳しくなります。一方で、金融や他業界のこと、社会全体の流れについては見えにくくなっていると感じたんです。ビジネスパーソンとして、もっと視野を広げる必要があると思いました。
そのとき、カウンセリングの領域をさらに深めるという選択肢もありましたが、視野を広げるためには経済学を学ぶ方がよいと考えました。MBAと経済学で迷いましたが、世の中の動きや流れを理解するには経済学だと思い、そちらを選びました。
竹内:松田さんの中には、臨床心理学のように個人を深く見る視点と、経済学のように社会全体を見る視点の両方があるように感じます。
松田:個人を見るとなったときには、やはり臨床心理学だと思います。
ただ、それだけでは本人たちは伸びていかないとも思っています。違う世界を見せること、新しい視点を得ることも必要です。世の中の流れを見たときに、次にどのようなビジネスが来るのか。社会課題がどのように変化しているのか。そうした視点を持つことも大切だと思っています。
ソーシャルイノベーションには、ビジネスモデルの理解が必要
竹内:ソーシャルイノベーションを起こしたい学生にとって、社会課題を解決したいという思いは強い一方で、経済的合理性や事業として継続する視点も重要だと思います。まず何から学ぶとよいのでしょうか。
松田:まずは、ビジネスモデルの理解からだと思います。
製造業でも、金融業でも、公的な事業でも、いろいろな業種があります。それぞれのビジネスモデルを理解することが大切です。どこにお金がかかっているのか、どこに問題があるのかを理解する。そこから、社会課題と結びつけられないかを考えていくと面白いと思います。
お客様のデータだけを見るのではなく、その企業のビジネスモデルなら何に困るのか、どこで行き詰まっているのかまで見る。そこまで考えると、新しい視点が出てくると思います。
竹内:まさに「虫の目」と「鳥の目」の両方が必要ということですね。個人が何に困っているのかを見る臨床心理学的な視点と、経済や経営のように大きな構造を見る視点の両方が大切なのだと感じます。
松田:そうですね。意識的に使い分けているかは分かりませんが、常にそういう考え方は持っていると思います。臨床心理学と経済学の両方を学んだこと、そして実家が会社をしていて、経営が身近にあったことも影響していると思います。
企業が求めるのは、新しい視点で道をひらける人
竹内:臨床心理学を学びながら、企業やビジネスの現場でも活躍できる人材は、これからの企業にとってどのような意味を持つと思いますか。
松田:これからの企業にとって、非常に重宝される人材だと思います。
もちろん、一般的な企業では、従順に言われたことをやってくれる人が好まれる面もあります。ただ、日本経済が長く停滞している中で、新しい事業が生まれにくいという危機感も、多くの企業が持っています。
そのときに若い人に期待されているのは、うまく話すことだけではありません。新しい視点で突破するエネルギーです。
視野が広く、別の角度から物事を見ることができる人がチームに入ると、新しいことができる可能性があります。私は、そういう人材を採用したいと思っています。
竹内:臨床心理学を学ぶ学生が、自分の価値を企業に伝えるためには、どのようなことが必要だと思いますか。
松田:採用という観点で言えば、正直、うまく話せる人や数字で成果を示せる人の方が強い部分はあります。ただ、それとは別に、自分の考えていることをきちんと伝えられる人は印象に残ります。
入社前なので、企業の課題を正確に分かっている必要はありません。ホームページを見て、「私はこう考えました」「この課題に対して、1年目はこう取り組み、2年目はこうして、3年目にはここまでやりたいです」と語れる人は、他の人とは違って見えます。
企業そのものに限らず、業界全体の課題でもいいと思います。たとえば、食品業界ならフードロスの問題があります。そこに対して、新しい解決策や事業の可能性を語れる人は、特に若い人材として求められると思います。
ワクワクする仕事を、自分でつくる
竹内:松田さんが仕事をするうえで大切にしている価値観は何ですか。
松田:基本的には、自分がワクワクする仕事をしたいと思っています。
与えられた仕事をする方が楽ではあります。ただ、それだけでは面白くないし、自分の成長にもつながらないと思っています。
経験が長くなればなるほど、新しいことに踏み出すのは面倒になります。それでも、成功するかどうか分からなくても踏み出す力や勇気を持っていたいと思っています。
竹内:新しいことを始めるとき、周囲の協力を得ることも大切だと思います。どのように進めているのでしょうか。
松田:新しいことに対しては、基本的に周囲には拒否感があります。まずは、1人、2人の味方をつくることから始めます。
理解者を増やすためには、臨床心理学の知見を活かしながら、相手の話を丁寧に聞くことが大切です。ここをおろそかにすると、後で崩れてしまいます。
5人から10人くらい理解者が増えてくると、一つのチームができます。そこから、まずは一つの部門や一つのエリアで、小さく試してみる。全部こちらでやってしまうと、相手がお客様になってしまうので、相手側からも1人、2人出してもらい、一緒に進めます。
成功すれば、もう少しやってみようとなります。失敗したら、原因を探ってもう一度チャレンジする。継続して諦めないことを大切にしています。
臨床心理学を学ぶ学生の強みは、人の小さな変化に気づけること
竹内:臨床心理学の知見は、組織の中でも活きていると感じますか。
松田:そうですね。私は組織の空気はあまり読めないかもしれませんが、人の空気を読むということは得意だと思っています。それは、臨床心理学を学んだからこそだと感じているので、京都文教大学の皆さんも得意だと思います。
振り返ると、京都文教大学の人は優しい人が多かったと思います。誰かが困っていたら助ける。顔色が悪かったら、「大丈夫かな」と気づく。文教で4年間過ごしていると当たり前に感じるかもしれませんが、社会に出ると、それは当たり前ではありません。
でも、その力は社会でとても重宝されます。文教の学生には、ぜひそのことを伝えたいです。
普段の頑張りや細かい変化は、会社では見過ごされがちです。だからこそ、部下の小さな変化や頑張りを見てあげることが大切です。「この人はよく見てくれている」と感じられると、人は頑張ろうと思えるし、新しいことに挑戦する意欲も出てくると思います。
臨床心理学を学んだ人は、メンタルヘルス部門や学生相談室だけで力を発揮するのではなく、日々の仕事の中でもその力を活かせると思います。
学生へのメッセージ
竹内:最後に、京都文教大学で学ぶ学生・大学院生に向けて、メッセージをお願いします。
松田:文教生には、優しさや、
そのうえで、新しいことに対して拒絶感を持たないことを大切にしてほしいです。
臨床心理学を学んでいると、「それは臨床心理学ではない」とか、「自分の専門とは違う」と感じることがあるかもしれません。でも、人間を理解するという意味では、経済学でも、法学でも、政治学でも、地域の学びでも、理系の知識でも、つながる部分があります。
最初から拒否するのではなく、いろいろな知識を受け入れてほしいです。いずれ、「あれとこれがつながっていたんだ」と分かる時が来ると思います。
もう一つ大事にしてほしいのは、体験することです。自分自身がその出来事に触れることが一番ですが、難しければ、その環境にいる人や、体験した人の話を聞くことでもいいと思います。
自分自身が体感していることほど、話すときに強いものはありません。旅行でも、他大学の学生との交流でも、アルバイトでも、何でもいい。いろいろなことを体験してほしいです。
おわりに
松田さんのお話から見えてきたのは、臨床心理学の学びは、決して限られた専門職の中だけに閉じるものではないということです。
人の話を聴くこと。相手の状態に気づくこと。表面的な課題の奥にある、本当の困りごとを考えること。相手を一方的に変えようとするのではなく、対話を通じて一緒に進んでいくこと。
これらは、カウンセリングの場面だけでなく、企業のマネジメント、顧客理解、新規事業、ソーシャルイノベーションの実践においても、大きな力になります。
一方で、松田さんは臨床心理学だけに閉じるのではなく、経済学や社会課題、ビジネスモデルへの理解も大切だと語ってくださいました。個人を見る力と、社会を見る力。その両方を持つことが、これからの時代に必要な人材の条件なのかもしれません。
臨床心理学の学びは、人の困りごとや関係性のあり方に丁寧に目を向ける姿勢でもあります。その姿勢は結果として、人と組織、企業と社会、個人の困りごとと社会課題をつなぎ、新しい価値を生み出すための土台にもなります。
松田さんのキャリアは、臨床心理学の学びがビジネスの現場でも確かに活きることを示す、一つのキャリアモデルと言えるのではないでしょうか。
| インタビュアー | 竹内良地 京都文教大学 地域企業連携コーディネーター / Rapport株式会社CEO 京都文教大学臨床心理学部卒業後、ネスレ日本株式会社に新卒入社。営業および企画業務に従事。2022年には、臨床心理学の知見を活かした人材・組織開発プロジェクトを企画し、社内コンテスト「イノベーションアワード」を受賞。 |
「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」のご紹介
「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」は、龍谷大学大学院政策学研究科、琉球大学大学院地域共創研究科、京都文教大学大学院の3大学院が連携し、次世代のソーシャルイノベーション人材を育成するためのプログラムです。
本プログラムでは、社会課題を多面的な視点から分析する力や、異なる領域の知見を統合し、新たな価値を創出する力を養います。持続可能な社会の発展に貢献できる人材の育成を目指し、臨床心理学の知見を活かしながら、社会課題解決に向けたイノベーションのプロセスを描ける人材、そしてその実践を支援できる心理専門家の育成に取り組んでいます。



